海賊版「多数決の原理」〜『パズルでめぐる奇妙な数学ワールド』より〜

パズルでめぐる奇妙な数学ワールド

パズルでめぐる奇妙な数学ワールド

コチラの本を読んで、面白いと思ったパズルをご紹介。

10人の海賊が金貨100枚というお宝を手に入れ、戦利品を分けようと思っている。その海賊には海賊なりの民主的な習慣があり、分ける方法はつぎのようにして決められる。もっとも冷酷非情なメンバーが分ける方法を提案し、全員が賛否を投票する。一人一票で、提案者にも投票権がある。半数以上の賛成が得られれば、提案は採用され、ただちに実行される。賛成が半数に満たなければ、提案者は海に投げ込まれ、つぎに冷酷非情なメンバーの提案によって同じ手順を繰り返す。
この海賊たちはすべて、他人を海に投げ込むのが好きだが、選べる場合には迷わず現金をとる。もちろん自分が死ぬのはいやだ。さらに、全員が論理的な思考にたけていて、他人がそうであることも知っていて、それを知っていることもまた知っていて・・・(中略)
さて、もっとも冷酷非情なメンバーがもっとも多くの金貨を得るためには、どんな提案をすればよいだろうか?

このパズルはイリノイ大学のスティーヴン・ランズバーグ氏によって考案されたものだそうです。


あまり自分が欲張った提案をすると皆の賛成を得られずに海に投げ込まれることになるので、自分を含む5人に対して20枚ずつ分ける提案をすれば半数の賛成票を得られるかなと考えたのですが、真に「合理的な」提案はそうではないんですね。ちょっと意外でした。



以下にちょっと長いですが解答例を載せときますね。


解答

もし海賊が2人のみだったらどうなるかを考えてみます。2人のうち、より冷酷非情な方をP2、もう片方をP1と呼びましょう。
この場合、提案者(=もっとも冷酷非情なメンバー)であるP2は、どんな提案をしても自分が賛成すれば半数の賛成票を得ることが出来ます。よって、海賊が2人の場合、もっとも合理的な提案は次のようになります。

メンバー P2 P1
金貨 100 0

賛成:P2  反対:P1


ここで、さらに冷酷非情なメンバーP3が加わるとどうなるか。
P1にしてみれば、もしP3の提案が否決されたら次はP2の提案となり、先ほど見たようにP2の合理的な提案ではP1は金貨を一枚も得ることができません。よって、P3の提案によってP1が金貨を1枚でも得ることができるのなら、P1はP3の提案に賛成せざるを得なくなります。
反対に、P2は何が何でもP3の提案を否決して自分の提案の順番にまわしたいと考え、そしてそのことをP3も知っています。よってP3としてはP2に何枚を配分する提案をしても結果は同じなわけです。
以上より、P3の行うもっとも合理的な提案は以下のようになります。

メンバー P3 P2 P1
金貨 99 0 1

賛成:P3、P1  反対:P2


さらにさらに、もっと冷酷非情なメンバーP4が加わるとどうなるか。
P4の提案に対して半数の賛成票を得るためには、自分(P4)以外にもう一人の賛成が必要となります。そこで、P4としてはP2に対して金貨を1枚配分する提案をすればよいことになります。なぜなら、P2はもしP4の提案が否決されれば自分(P2)は1枚も金貨を得られないことを知っているからです。(先の検討より)
よって、P4の行うもっとも合理的な提案は以下のようなります。

メンバー P4 P3 P2 P1
金貨 99 0 1 0

賛成:P4、P2  反対:P3、P1


ではでは、もっと冷酷非情なメンバーP5が加わるとどうなるか。
P5の提案が可決されるにはあと2人の賛成票が必要です。この場合、P5の提案が否決されると金貨を一枚も得られなくなるP3とP1に金貨を配分すればよいわけです。
よって、P5の行うもっとも合理的な提案は以下のようになります。

メンバー P5 P4 P3 P2 P1
金貨 98 0 1 0 1

賛成:P5、P3、P1  反対:P4、P2


以上の検討をメンバーが10人になるまで続けることで、もっとも冷酷非情なメンバーP10の行うべき提案は以下のように求まります。

メンバー P10 P9 P8 P7 P6 P5 P4 P3 P2 P1
金貨 96 0 1 0 1 0 1 0 1 0

賛成:P10、P8、P6、P4、P2  反対:P9、P7、P5、P3、P1



P10のほぼ総取りというのが、真に合理的な提案となりました。
はじめにこの解答を知ったとき、あまりに偏った結果にちょっと唖然としました。。
実際にこの提案をしたら、多分P10は海に投げ込まれるでしょうね。
互いの駆け引きとか、配分後の金貨のやり取りといった行為を一切排除しているために可能な思考なのでしょうけど。
ここでの教訓は、合理性だけを追い求めても、必ずしも良さそうな結果には辿り着けないってことなのかな。