雷の季節の終わりに

starocker2006-11-20

雷の季節の終わりに

雷の季節の終わりに

雷の季節にはよく人が消える。それはもう仕方がないんだ。
少年時代を過ごしたその町には、春夏秋冬の他に、もう一つの季節があった――。
現世から隠れて存在する小さな町・穏で暮らす少年・賢也。彼にはかつて一緒に暮らしていた姉がいた。しかし、姉はある年の雷の季節に行方不明になってしまう。姉の失踪と同時に、賢也は「風わいわい」という物の怪に取り憑かれる。風わいわいは姉を失った賢也を励ましてくれたが、穏では「風わいわい憑き」は忌み嫌われるため、賢也はその存在を隠し続けていた。賢也の穏での生活は、突然断ち切られる。ある秘密を知ってしまった賢也は、穏を追われる羽目になったのだ。風わいわいと共に穏を出た賢也を待ち受けていたものとは――?
透明感あふれる筆致と、読者の魂をつかむ圧倒的な描写力。『夜市』で第12回日本ホラー小説大賞を受賞した恒川光太郎、待望の第一作!
http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_search.php?pcd=200601000261

前作の『夜市』でもそうだったけど、作者の恒川さんは異世界を描くのがホントに上手だ。
異世界といっても、ドラゴンや魔法が出てくるような現実離れした世界ではなく、現世の少し延長、あるいは現世の裏側にあるような、とても身近にあるんだけど普段は気付かないし辿り着けないような、そんな世界。
この『雷の季節の終わりに』でも『穏(おん)』という名の異界の町が舞台として登場する。どこか日本の片田舎のような風情であるが、四季とは別に訪れる「雷季」の存在や「墓町」と呼ばれる場所でのエピソードが、かろうじて穏が現世ではないことを教えてくれる。個人的にとても好きな世界観だ。
物語が進むにつれて、賢也の正体、姉の失踪の真相、風わいわいが賢也に取り憑いた理由が徐々に明らかになり、やがては一本の線で繋がる。それは恐ろしくも悲しい物語だった。
展開としては少々の強引さとラストの物足りなさを感じたけど、現世を忘れて異世界に沈みたいときには本書を読むとよいと思いますよ。