環境ノイズを読み、風景をつくる。

環境ノイズを読み、風景をつくる。 (建築文化シナジー)

環境ノイズを読み、風景をつくる。 (建築文化シナジー)

風景をよく見ると、新しいかたちは地形や土木構築物、そして過去の都市計画など、古いかたちの影響を受けていることに気がつきます。
私たちをとりまく環境には、さまざまな「意図」が重層的に潜んでいるのです。

本書では、さまざまな風景を取り上げ、写真や地図を用いながら、そこに刻まれた計画のほころびを読み解き、そしてそれらを積極的にとらえて設計に活かしていく方法を具体的に紹介します!

建築文化シナジー

街を歩いていると、「なんでこんなモノがこんな所に?」といった違和感を覚える風景に遭遇することがある。
それは大方の場合、過去の都市計画のなごりであったり、自然物の影響によって已むなく形成されたものであったりするのだが、その結果として

本来その「計画」が志向し誘導しようと試みた風景の秩序に「ほころび」が生ずることになる。そういった空間的に現象した「計画」の「ほころび」のことを「環境ノイズエレメント」と呼んでいる。(p.8)

というわけで本書ではその「環境ノイズエレメント」の実例を写真と地図で読み解き、そしてそれらを積極的にとらえて設計に活かしていく方法を紹介する。


本書で取り上げられている環境ノイズエレメントの一つをご紹介。
下の地図は井の頭線(永福町→明大前→東松原→新代田)の一部を表示したものだが、逆S字型とでも呼べそうな形でちょっと不自然に曲がっているのが見て取れる。

明大前を経由しないで永福町から新代田まで直線で接続した方が自然な気がする。
そこで、この地図に一本の補助線を加えることで、何故このような曲線(クランク)を描くように井の頭線が敷設されたのか、その理由が浮かび上がってくる。

明大前で曲線に接するように引かれた赤の補助線。

つまりこれは、昭和初期に先行して計画され、完成すれば帝都の外環状線となるはずであった東京山手急行電鉄と、その支線である井の頭線を西松原停留場(現明大前駅)において平行接続させようとして生じたクランクである。(p.34)

地図中の赤の補助線が過去に計画された東京山手急行電鉄であり、計画通り敷設されていれば明大前駅で両線が平行接続されていたそうだ。
しかし結局、外環状線の計画は中止となり、現在のクランクのみが残されたため、あのような不思議な形状が今も存在しているわけだ。
事実、今でも明大前付近では、外環状線用に準備されたガードなどの遺物が残っている、とのこと。明大前に行く機会のある方は、ぜひそれと思われる遺物を探してみてはいかが。


本書ではその他の環境ノイズエレメントの説明と、日本全国の環境ノイズエレメント・マップが掲載されている。もしかしたらあなたのご近所にもそういった環境ノイズが存在しているかもしれない。
街の風景の中からこういった「ノイズ」を見つける観察眼(環境ノイズ・リテラシー)を鍛えることができれば、何気なく見過ごしている景観が普段とは違って見えてくる、かも。