『図説「最悪」の仕事の歴史』 トニー・ロビンソン[著] 日暮雅通&林啓恵[訳](原書房)

図説「最悪」の仕事の歴史

図説「最悪」の仕事の歴史

反吐収集人から王様の御便器番、煙突掃除人……。古代から近代にいたる、辛くてきつい、けれど誰かがやらなければならなかった「庶民の仕事」の歴史をたどったはじめての本。貴族生活も近代化も彼がいなくてはあり得なかった! 本書は、歴史を支えてきた過酷な「ハローワーク」である。

http://www.harashobo.co.jp/new/shinkan.cgi?mode=1&isbn=04119-0

都市伝説の一つに、病院で解剖用の遺体を洗浄する「死体洗いのアルバイト」と呼ばれるものがある。
(参考)死体洗いのアルバイト - Wikipedia
あくまでも都市伝説、言ってしまえば作り話なわけだが、もしホントならば現代における「最悪」の仕事の一つとして語り継がれていただろう。
本書『図説「最悪」の仕事の歴史』は、都市伝説ではなく実在の、英国史を裏から支えてきた「最悪」と呼べる仕事の数々を紹介する一冊である。


「最悪」の仕事の紹介はローマ時代から始まり、中世、チューダー王朝時代、スチュアート王朝時代、ジョージ王朝時代、ヴィクトリア時代へと続く。
本書の一番最初に取り上げられるローマ時代のお仕事は「反吐(へど)収集人」。もうこの時点でかなり「最悪」な様子が想像される。
ローマ式の饗宴ではとにかく食べ、そして吐き戻し、また食べることを繰り返していたようだ。
彼らは吐きたいときに部屋を出ることなく、専用のボウルまたは床へ直接ぶちまけた。それらを素早く回収していたのが先ほどの「反吐収集人」である。絵を想像することもちょっと厳しい。。
それでも彼ら収集人は少なくとも屋内での作業という意味でまだ恵まれていた。この時代にはさらに「最悪」な仕事が存在していたからだ。それは・・・


・・・といった形式で、各時代ごとに最悪度の低い仕事から各時代最悪の仕事までを順々に見ていく。
最悪度をはかる目安として、本書では次の5つの要素に着目する。
1つ目は体力仕事であるという点。もちろん並の力仕事ではない。
2つ目は汚れ仕事であること。先の反吐収集人もそうだし、本書を読めば実はヴァイオリンの弦づくりも相当な汚れ仕事であったことも分かる。
3つ目として、やはり金銭面が挙げられる。収入の低い仕事は当然いやだ。
4つ目は危険性。仕事中に死ぬかもしれないもの、その仕事を続けることで特有の病気に知らずかかってしまうものの2つの危険性が挙げられる。
最後の5つ目は退屈さである。同じ作業を淡々とこなす苦痛さは現代でもよく聞く話だが、本書で登場する「財務府大記録の転記者」は毎年の収支決済書を丸十二ヶ月かけて書き写すという仕事だ。終わったときには次の年の収支決済書が待っている。
それでは、本書で紹介される仕事の中で「最も最悪」な仕事はなんだろうか?

すべての時代を通じて最悪の仕事は、以上のうち四つの要素を含んだものだ。報酬がいいという明るい面もあるが、それもほかのすべての点で最悪だということにより、打ち消されてしまう。汚れ仕事であり、単調で疲労困憊する仕事であり、長期間にわたって健康を損なう仕事。さらには、おそろしく不快な悪臭を伴うので、鼻のないことが仕事につく要件だとでも言いたくなるくらいだ。(p.311)

正解はぜひ本書で確かめていただきたい。(まあ目次を見れば分かっちゃうんだけどね)
私は仕事の名称くらいは知っていたけど、ここまで過酷な仕事内容だとは全く知らなかった。。


本書を読んで思ったのは、どの仕事も各時代のニーズというか必然というか、なくてはならないものばかりであったということ。
確かに誰もが進んでやりたがる仕事ではなかったけども、彼らのおかげで社会や学術が現代に至るまで発達できたことは間違いない。

私たちの歴史が作られてきたのは、それぞれの時代の"最悪の仕事"に従事した、無名の人たちのおかげなのである。彼らこそ、この世界を作ってきた人なのだから。(p.321)