ムンクを追え! 『叫び』奪還に賭けたロンドン警視庁美術特捜班の100日

ムンクを追え! 『叫び』奪還に賭けたロンドン警視庁美術特捜班の100日

ムンクを追え! 『叫び』奪還に賭けたロンドン警視庁美術特捜班の100日

1994年、ノルウェー国立美術館からムンクの『叫び』が盗まれた。
現場には「手薄な警備に感謝する」という挑発的なメッセージが書かれた絵葉書が。
これは『叫び』奪還のために奮闘したおとり捜査官を主軸に、美術品窃盗の歴史や闇社会について書かれたノンフィクション。


おとり捜査の描写も面白かったが、そもそも何故彼らは美術品を盗むのか、という辺りの話が特に興味深く読めた。
単にお金が欲しいだけなら、銀行強盗の方がスマートに思える。なぜなら絵画を盗む場合、その絵画を売りさばくという手間が発生するからだ。
では何故わざわざ絵画を盗むかと言えば、一つは銀行に比べてあまりにずさんな美術館の警備体制が挙げられる。要は盗みやすいのだ。
その他の動機として、

ラスバラ・ハウスのたび重なる盗難事件から学ぶべき教訓があるとすれば、盗人たちが名画を奪うのは、売りさばいて利益を手にすることだけが目的ではない、ということだろう。世間に名をとどろかせたい、スリルを味わいたい、お高くとまった美術関係者、蒐集家、評論家たちを見下してやりたい、といった衝動もある。

また名画を盗むこことによって『箔がつく』と泥棒たちが強く信じている点も盗難が後を絶たない理由の一つなのだそう。
ルパン三世』さながらの世界は現実世界にもあるようだ。


ただ、『ルパン三世』の世界観とは違って、どこかの黒幕が世界中の美術品を裏でコレクションしている、という話は俗説に過ぎないとのこと。
また、名画を盗み、利益を得るためでなく、自分の楽しみのためだけに保持していた泥棒はアダム・ワースという人物ただ一人(歴史上分かっている範囲では)なのだそう。
そしてこのアダム・ワースがシャーロック・ホームズに登場する宿敵モリアーティ教授のモデルになった。


現実では、盗んだ美術品はマフィアや麻薬の売人の手に流れたりしているうちに、永久に行方不明になるケースがほとんどで、統計では盗まれた名画のうち10枚中9枚は二度と戻ってこない。
なんとももったいない話だ。
ただ、盗まれた名画が戻ってくると、その値打ちはさらに上がることになる。
要は『盗まれるだけの価値がある』と世間に示すことになるからだ。
どうして絵画を盗むのか、という問いに対して、作中のある悪党は次のように述べる。

絵画には盗む価値がある。なぜなら価値があるからだ。どんな価値かと問われれば、それは"盗む価値"としか答えられない。

この本のあとがきにもあるが、2004年8月、また『叫び』が盗まれた。
今現在、事件が解決されたかどうかは私は知らないが、改めて『叫び』の価値の高さを思い知らされた。