第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい

第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい

第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい

本書の原題は『blink』、すなわち『ひらめき』である。
説明がつかないような、なんとなく考えた事柄が多くの場合に有効であるという事実を様々な角度で検証している。
原題のサブタイトルである『The Power of Thinking Without Thinking』が内容をよく表していると思う。


邦題ではその『ひらめき』を『第1感』と表現している。
『第6感』が5感を超越した感覚であるのに対して、『第1感』は5感の前に存在する感覚、ということだ。
本書のプロローグでこの第1感=適応性無意識についての興味深いストーリーが紹介されている。


ある美術商が古代の彫像(クーロス像)を美術館に持ち込んできた。1000万ドルで買わないか、ということだ。
このクーロス像がどれほど貴重なものかは本書を読めば分かるが、とにかくこれが本物の彫像かどうかを美術館は慎重に調査する必要があった。
様々な科学的調査を経て14ヶ月後、美術館はこの彫像を『本物』と判断した。


ところが、何名かの美術史家や美術館元館長、博物館館長などの美術に精通した人達が一目この彫像を見るなり『どこかおかしい』と言うのだ。
それも何日も彫像を調べた結果、ではない。
わずか2秒眺めた直後に、皆一様に説明できない違和感を感じたのだ。
では結果は?
もちろん、彼らの『第1感』の勝利、彫像は偽物だった。


本書はそのような説明がつかない感覚を説明しようというもので、どれも興味深い話ばかりが、中でも第4章『瞬時の判断力』のくだりは、ムンクを追え!に出てきたおとり捜査官と通じるものがあった。
捜査官曰く、おとり捜査中は基本的な役柄を決めるだけで、あとはその場の判断に身を任せて捜査を行うのだそうだ。
まさにひらめきで勝負しているのだろう。
ただし、本書に依ればそういったひらめきは決して行き当たりばったりなものではない。
その背後には確かなルールや入念な準備が必要となる。
おとり捜査官の場合も、捜査に当たる前には奪還対象の美術品および美術家に関する知識を様々な文献等を利用して調べている。
そういった積み重ねがあって初めて『瞬間の判断力』(アドリブ)が可能となる。
いつ何時、瞬間的な判断が必要となるか分からない御時世(そうでもないか?)、常に貪欲に知識を吸収しつつ生きていたいものだ。