スロウハイツの神様 (上)(下)

スロウハイツの神様(上) (講談社ノベルス)

スロウハイツの神様(上) (講談社ノベルス)

猟奇的なファンによる、小説を模倣した大量殺人。この事件を境に筆を折ったチヨダ・コーキだったが、ある新聞記事をきっかけに見事復活を遂げる。闇の底にいた彼を救ったもの、それは『コーキの天使』と名付けられた少女からの128通にも及ぶ手紙だった。
事件から10年――。売れっ子脚本家・赤羽環と、その友人たちとの幸せな共同生活をスタートさせたコーキ。しかし『スロウハイツ』の日々は、謎の少女・加々美莉々亜の出現により、思わぬ方向へゆっくりと変化を始める……。
http://shop.kodansha.jp/bc/books/topics/slow/


スロウハイツの神様(下) (講談社ノベルス)

スロウハイツの神様(下) (講談社ノベルス)

人気作家チヨダ・コーキが暮らす『スロウハイツ』の住人たちは、平和な日々を送っていた。新たな入居者、加々美莉々亜がくるまでは――。
コーキに急接近する莉々亜の存在が、不穏な空気を漂わせるなか、突如判明した驚愕の事実。赤羽環のプライドを脅かすこの事件は、どんな結末を迎えるのか……。
環を中心とした『スロウハイツ』の輪は、激しい衝突と優しい修復を繰り返しながら、それでもゆっくりと着実に自分たちなりの円を描いていく。未成熟な卵たちが、ここを巣立つ時とは!?
http://shop.kodansha.jp/bc/books/topics/slow/


開口一番、すごくいいお話だったと言いたくなった。面白かったです。
タイトルにある「スロウハイツ」は、登場人物の一人・赤羽環が仕事で知り合ったおじいちゃんから譲り受けた旅館を改造したもの。
そこに売れっ子脚本家や小説家、漫画家志望に映画監督志望、画家志望など、クリエイター(とその卵)たちが一つ屋根の下で暮らす。まるで『トキワ荘』のように。
上巻で彼らの個々の物語にスポットをあて、過去から現在に至るまでの人間模様を丹念に描いていく。こういった集団生活はお互いに刺激になることも多いだろうけど、同じくらい衝突することもあるんだろうなぁ。ちょっと惹かれるものがあった。
そんな幸せな時間は、やっぱり永遠に続くわけがなく、徐々にスロウハイツの集団生活に変化が現れる。ミステリーを紐解くように上巻の裏話というか真相が明かされていき、ハイツの物語にも終焉が見え始める。そんななかでも後半の皆で環を助けるエピソードにはかなりグッときた。
そして最終章『二十代の千代田公輝は死にたかった』で語られる10年前の事件と今の物語を繋げるエピソードと、その後を語る『エピローグ』。素晴らしかった。感動した。この2章のために他の物語はあったのかもしれない、とも思えた。
エピローグで正義が最後に言った台詞、上手くまとめ過ぎかもしれないけど、個人的にはとてもいいなと感じた。