新釈 走れメロス 他四篇
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2007/03/13
- メディア: 単行本
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あの名作が、京の都に甦る!?
暴走する恋と友情――
若き文士・森見登美彦の近代文学リミックス集!その時、彼の腕を通りすがりの女性が必死で掴み、「ちょっとすいません!」と叫んだ。思わず見返した相手は驚くほどに可憐な乙女であり、目に涙を溜めている。芽野は決して女性に腕を掴まれたぐらいでのぼせ上がるような人間ではないけれども、理由を聞く前から彼女の涙にもらい泣きしていた。(「走れメロス」より)
異様なテンションで京都の街を突っ走る表題作をはじめ、先達への敬意(リスペクト)が切なさと笑いをさそう、五つの傑作短編。
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中島敦「山月記」、芥川龍之介「薮の中」、太宰治「走れメロス」、坂口安吾「桜の森の満開の下」、森鴎外「百物語」を、京都を舞台にリミックスした作品集。
元のお話を知らなくても十分に楽しめるけど、知っているとさらに面白いと思います。
私は「山月記」と「薮の中」を朧げながら知っているくらいで、はっきりと思い出せるのは「走れメロス」だけなんですが、曖昧な記憶に捕われない分、作品そのものを楽しめましたんじゃないかな。
特に楽しかったのはやはり表題作の「走れメロス」。
これは国語の教科書に掲載されるくらい有名な作品なので、何故メロスが走るのかは多くの方が知っていると思います。理由は友の命を救うためですね。
その古典的名作を、文字通り180度反対にリミックスしてしまうとは!
もう、面白すぎて、読みながら顔がニヤニヤしてしまいました。
原作の持つスピード感をそのままに、京の町をテンション高めな登場人物たちが駆け巡る様は、絵を思い浮かべるだけでヤバいです。
個人的にハイライトは以下の箇所。言っていることはよく分からないけど、そのテンションに押し切られました。
「そんなのは詭弁だ。そんな友情があるものか」
「あるのだ。そういう友情もあるのだ。型にはめられた友情ばかりではないのだ。声高に美しい友情を賞賛して甘ったるく助け合い、相擁しているばかりが友情ではない。そんな恥ずかしい友情は願い下げだ!俺たちの友情はそんなものではない。俺たちの築き上げてきた繊細微妙な関係を、ありふれた型にはめられてたまるものか。クッキー焼くのとはわけがちがうのだ!」
(「走れメロス」p.124)
詭弁論部に栄光あれ!
元ネタを知ってから本作を読みたいという方は青空文庫で各作品を読んでおきましょう。