落下する花―月読

月読 落下する花

月読 落下する花

ひとが死ぬと、何かひとつ、奇蹟を遺す。
古今東西、有史以前から、そう決まっていた。
それを日本では月導と呼ぶ。(p.16)

人が亡くなる際、その人の最期の思いが月導(つきしるべ)という形で生成される世界。
そしてその月導に託された思いを読むことのできる異能の者・月読(つくよみ)。
それ以外は現代日本とほとんど変わりない世界を舞台とした作品。


何故月導が遺されるかは全く解明されていない。
遺される月導も実に多様で、

真夏に一本だけ桜が咲いたり、庭石の中に愛用していた腕時計が埋め込まれたり、夜中に突然眩い光が降りてきて故人の家を照らしたり、そんな他愛もない、多くは人畜無害なものばかりだ。(p.16)

一方で、残された人たちにとっては、月導は故人の形見ともとれる代物であり、そこに込められた思いを知りたいと考える人も少なからず居る。
そんな彼らの願いを叶えてくえるのが、月導に残された思いを読むことのできる唯一の存在、月読と呼ばれる者たち。
大切な人の死に直面した人々が、その人の月導を通して死と真摯に向き合おうとする姿を描く、少し物悲しいけど心揺さぶるミステリです。
月導は確かに故人の最期の思いですが、それは決して故人の人生を象徴するような何かではなく、あくまでも「故人が最期の瞬間に考えていたこと」。だから中には「烏賊そうめんが食べたい」というメッセージが残された月導もあったりして、残された人たちが期待するような何かが必ずしも読み取れるわけではないという点がもどかしくもあり、読む者(月読や本作の読者)に対して何かしらの余地を与えてくれてるように感じました。
また月導と月読という設定はどこか漫画「蟲師」の世界に近いかなと。実際「蟲師」が好きな方なら「落下する花」も楽しめるんじゃないかなと思います。


本作は既刊「月読」からスピンオフした短編集ですが、「月読」を読んだことない方でも全然大丈夫です(私も「月読」は読んだことありませんでした)。
本作がとても面白かったので、次は「月読」を読んでみようと思います。(既にbk1で注文済み。。)