死体闇取引 ―暗躍するボディーブローカーたち

starocker2006-07-25

死体闇取引―暗躍するボディーブローカーたち

死体闇取引―暗躍するボディーブローカーたち

アメリカの死体マーケットの実態に迫るドキュメンタリ。
死者を売り買いする行為は世間一般の人からすればタブーに思えるだろうけど、一歩その世界に踏み込めば、そこには需要と供給に支えられたビジネスが存在することが分かる。ただし、本書で扱うのはいわゆる全うなビジネスではない闇の部分、不正を働く火葬業者や大学職員、そして昔から存在する墓荒らしのような者たちだ。


アメリカの場合は日本に比べて土葬にする割合が高そうだけど、それでも火葬を望む人達も少なからず存在する。病院で息を引き取った者を火葬業者は引き取り、しばらく経った後に業者は骨壺を引き取り手のもとへ届ける。その過程において、悪徳な業者は遺体を解体し、それを必要とするところ(例えば、手術の実施訓練)に売りつけることで利益を得て、用が済めば燃やして灰にし遺族へ何食わぬ顔で届けている。もちろん、遺族側への了解なしにそういった売買はなされている。聞くだけでゾッとする話だ。


遺体の供給源は火葬場だけではない。大学には、自分の死後に医学の発展に寄与したいと自ら献体を申し出る人がいるそうだが、それを横流しすることで不当な利益を得る者もいる。売り先はやはり医療関係であったり、中には対地雷防護服の試験に使うために陸軍に売られるケースもあった。最後の最後に医学に貢献できると思っていたら地雷でバラバラに爆破されてしまうなんてたまったものではない。


もちろんこういった遺体を利用した実験等で医学や科学が発展しているのだろうし、法的にも認められていることだ。問題は、死者の売買で利益をあげる行為の是非だろう。自身の献体を無償で申し出た人を、本人の望まぬ形で利用するのみならず、自分たちの利潤を生みだすために利用する。あるいは遺族の了解を得ずに商売道具として利用し、挙げ句には遺族の元へ「本人」が返ってこないこともある。やはり気持ちのよい話ではない。


個人的には、自分の死後にバラバラに解体されて医学の発展に寄与するのも、火葬場で炎に包まれて灰にされるのも、土葬で地面の中で人知れず腐っていくのも、どれも死後の自分のあずかり知らない話なわけで、だったら医療関係者の手に渡った方が良いかなと思う。のこぎりでバラされるのも、火で燃やされるのも、むごさの点では変わらないだろうし。でも、日本の場合はまだまだ火葬がポピュラーだろうし、残された人達の気持ちを考えると、医療へ貢献するのは難しいかもしれない。日本の死体マーケットについては本書では述べられていないが、願わくはアメリカの事例のような話はあって欲しくないと強く思う。