数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活

数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活―病院や裁判で統計にだまされないために

数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活―病院や裁判で統計にだまされないために

死と税金のほかには、確実なものは何もない。 〜ベンジャミン・フランクリン


本書の冒頭で「フランクリンの法則」として紹介される言葉。
なんとも悲観的な響きのする言葉だけど、言われてみると確かに私たちは不確実な世界に暮らしているように思う。
明日の降水確率、宝くじの当選確率、交通事故の遭遇率などなど、不確実性は身近なところに色んな顔で潜んでいる。
でも、「○○の発生する確率が○%」と言われても、その不確実性の意味することを理解するのは案外難しいんじゃないかな。
そこで本書では、日常に潜む不確実性を知り、それに対処するための方法や考え方を様々な例をもとに教えてくれる。

本書の目的のひとつは、読者のみなさんに確実性の幻に気づいていただくことだ。第二の目的はリスクを理解し、それをうまくひとに伝えるのに役立つツールを提供することである。(p.306)


本書で示される方法のひとつが「自然頻度」を使うというもの。
例えば以下の問題を考えてみる。

四〇歳の女性が乳がんにかかる確率は一パーセントである。また乳がん患者が、乳房X線検査で陽性になる確率は九〇パーセントである。乳がんでなかったとして、それでも検査結果が陽性になる確率は九パーセントである。さて、検査結果が陽性と出た女性が実際に乳がんである確率はどれくらいか?(p.13)

この形式の問題は「ベイズの定理」の説明でよく見かけますよね。定理を知っている方なら公式に当てはめて乳がんである確率を算出できるでしょうが、そうでない方ならかなり絶望的な確率(90%近い?)を思い浮かべたのではないでしょうか。
次に、同じ問題を著者の提案する「自然頻度」で置き換えた場合で考えてみよう。

一〇〇人の女性を考えよう。このうち一人は乳がんで、たぶん検査結果は陽性である。乳がんではない残りの九十九人のうち、九人はやはり検査結果が陽性になる。したがって、全部で一〇人が陽性である。陽性になった女性たちのうち、本当に乳がんなのは何人だろう?(p.14)

今度は本当に乳がんなのは1人であることが容易にわかりますよね(「このうち一人は乳がんで」とはっきり言っていますし)。つまり、「陽性」という検査結果が出た10人のうち本当に陽性であるのは1人だけであり、「実際に乳がんである確率」は10%となる。これが最初の問いに対する答えだ。
この「自然頻度」の考え方は情報の受け手だけでなく送り手にも大切だ。誰かに説明する際には確率よりも自然頻度の方が分かりやすいし、何より送り手自身が話を理解するためにもこういった考え方を知っておくことは大事だろう。


そもそもどうして不確実性について知っておく必要があるか、ということについて、本書は特に病院と裁判の事例をメインに説明してくれる。
例えば乳がんの検診。検診ではがんの早期発見というメリットばかりを考えがちだけど、当然そこにはデメリット(コスト)も存在する。
まず検診結果は100%確実なものではないため、誤って陽性と判断される偽陽性のケースがある。また、乳がんといっても非進行性(あるいは進行の遅い)乳がんの場合もあり、この場合は患者の大半は検診を受けなければ生涯がんに気づかなかったと考えられる。そして極めて少数(一万人に2〜4人程度)は検診時のX線検査での放射線が原因でがんになることもある。
こういった方々は本来なら必要なかったかもしれない検査や手術のために身体的、心理的、金銭的な負担を課せられてしまう。
がん検診を受けるべきか否かを選択するのは個人の責任だけど、「検診は良いもので、その結果も当然確実なものだ」と盲目的に考えてしまうと真に賢い選択ができないだろう。


本書では他にもDNA鑑定の不確実性について面白い内容(被告のDNAと犯行現場のDNAが一致しただけでは被告を有罪と確定できない、等々)が紹介されています。