ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ !

ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ ! (講談社ノベルス)

ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ ! (講談社ノベルス)

第36回メフィスト賞受賞作

「あなたが犯人!」。
あり得ないと思えた企みの完遂に向かい、すべての進行が周到に準備される。この被害者を殺した犯人は、ぼくだった。これから読まれる人すべてが、この驚きを味わうはず。誰もが気づかなかった方法。このジャンルの、文句なくナンバーワン。――(島田荘司

新聞に連載小説を発表している私のもとに1通の手紙が届く。その手紙には、ミステリー界最後の不可能トリックを用いた<意外な犯人>モノの小説案を高値で買ってくれと書かれていた。差出人が「命と引き換えにしても惜しくない」と切実に訴える、究極のトリックとは?読後に驚愕必至のメフィスト賞受賞作!

http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=1825259

本書を読んでいるあなたが実は犯人だった---。
ミステリーに於ける究極のトリックに果敢に挑んだ本作、読後の感想としては、なるほど確かに私が犯人(の一人)だった。それは本書の言い分を鵜呑みにすれば、という条件の下でだが。


「読者が犯人」を成立させる条件の一つに、本書でも触れられているトリックの普遍性がある。
つまり、「本書を読んだAさんは犯人だったけど、同じく読んだBさんは犯人ではなかった」となってしまっては意味が無い。Bさんにしてみれば「話しが違うではないか!」となるわけだ。
また日本人が読んだ場合のみ成立する、といったトリックも使えない。もしそんなトリックで英訳版が出版されてしまったら国際問題になりかねない。(ならないか)
その他いろいろなケースが想定されるわけだけど、それら全てのケースに対して成立可能となって、初めて「読者が犯人」は完成する。


その究極のトリックの詳細についてはもちろんここでは書けないけど、これはどうしても賛否両論を呼んでしまうだろうなぁと思った。
これまた本書で触れられていることだが、このトリックが成功するためにはかなり特殊な条件/状況が必要であり、本書を読んですぐに同じトリックを仕掛けることは、この世の大多数(ほぼ全員)にとって不可能といっても過言ではないだろう。もちろん私にも無理。
ただしそのアイデアには素直に感心したし、物語終盤で自分が犯人であることに気づかされた瞬間は思わず声を出して唸ってしまった。
なるほど面白いなと考えた直後、先ほど本書のトリックを実現可能な人間はほぼ居ないと書いたが、実は本書の作者自身がその実現可能な人間であり、すでに本書においてそのトリックを実際に仕込んでいるのでは、などと壮大な計画に想いを馳せたりしてみた。
もしそうなら、著者の今後の作品と将来から目が離せなくなりそうだ。


ところで、本書タイトルの「ウルチモ・トルッコ」は「究極のトリック(ultimate trick)」のスペイン語訳(ultimo truco)ではないかと思うけどどうなのだろう?
ネットで調べた限りイタリア語訳(ultimo trucco)だという意見しか見かけないが、本書を読んだ限りではスペイン語訳として考えた方がしっくりくると感じたのだが、真相は此れ如何に。